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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1809号 判決

控訴人

紀北信用組合

右代表者理事

吉田虎次

右訴訟代理人

田辺善彦

被控訴人

高尾力

被控訴人

山田省吾

被控訴人訴訟代理人

山崎和友

主文

原判決を取消す。

被控訴人らは控訴人に対し、各自金一三九万四、三〇三円および内金七九万四、三〇三円に対する昭和五〇年二月一日から、内金三〇万円に対する同年二月二六日から内金三〇万円に対する同年三月二六日から完済に至るまで日歩七銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

この判決は、控訴人が被控訴人らに対し各三〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一、二〈省略〉

三〈前略〉

〈証拠〉を綜合すると、次の事実が認められる。

1  被控訴人高尾は昭和四七年春事業資金が不足して来たため同業者(土地開発業者)の山中に相談をしたところ、県商工信用組合の理事をしていた山中は同被控訴人を控訴人に紹介し、その結果山中も連帯保証人となつて同年五月一八日前認定の本件取引基本契約が結ばれ、同日同被控訴人は控訴人から一〇〇万円、全国信用協同組合連合会から控訴人を代理貸として四八〇万円を手形貸付により借受けた。

2  被控訴人高尾は昭和四八年春頃から再び資金不足になり、控訴人に対する前記借受債務や定期積金の支払を遅滞させるに至つたため、山中に相談をした結果、山中が約束手形を振り出し、被控訴人高尾が裏書をし、同被控訴人が控訴人からこれらの手形の割引を受けて、右弁済資金等にあてることとし、被控訴人は山中に右割引に関する手続をすべて任せて解決を依頼した。そこで山中は昭和四八年七月一〇日別紙手形割引一覧表記載①(以下別紙手形割引一覧表を省略し、①、②の記号のみ記載する)のとおり合計金額三〇〇万円の手形を振り出し、右手形の第一裏書人欄、割引申込書の依頼人欄に被控訴人高尾の氏名を代署し、同被控訴人から預かつた取引印を押捺し、これらを控訴人に提出して控訴人から右手形の割引を受けた。右割引金は一旦同被控訴人高尾名義の控訴人普通預金口座に入金され、山中の手を通じて前同様山中が署名押印を代行して作成した普通預金払戻請求書を提出して払戻され、前記各支払にあてられた。

被控訴人高尾は、山中に対しその後も手形割引による弁済資金等のやりくりを任せ、山中は前同様にして②ないし⑤のとおり控訴人から手形割引を受けた。被控訴人高尾はそのうち②と⑤の割引を受ける際には山中に同行し、②の割引申込書、払戻請求書⑤の割引申込書に自署したが、その際でも割引についての交渉一切は山中がこれにあたつた。

3  昭和四九年二月下旬控訴人から割引を受けたことによる手形金債務額は③、④、⑤の三八八万七〇〇〇円に達し、かつ同年二月二五日満期の③の手形について決済が困難な状況になつた。そこで山中は控訴人に対し③、④、⑤について一括して分割弁済を求めた。その結果山中は同月二七日、本件(1)ないし(5)の手形を含め合計一二通の手形(いずれも金額三〇万円、同年四月以降同五〇年三月までの毎月二五日を満期とし、その余の手形要件は本件手形に同じ)を振り出し、かつ前同様右手形の第一裏書人欄および割引申込書の依頼人欄に高尾力と代署し、名下に高尾名義の有合印を押捺して、これにより控訴人から被控訴人高尾名義で各手形の割引を受けた。右割引金のうち④、⑤の手形相当額は④、⑤の手形の買戻にあてられ、残金一七四万七九二円は前同様同被控訴人名義の普通預金口座に入金され、同日、山中において前同様高尾力と代署し、同被控訴人から預つた取引印を押捺して作成した普通預金払戻請求書が控訴人に提出され、これによつて内一七三万円が書面上払出される手続がとられ、これに山中において用意した金が足されて③の手形の決済資金にあてられた。

4  被控訴人高尾は控訴人に対し前記手形の不渡が出るまでは自己署名によつて割引を依頼した手形を含め、自己名義の手形割引について、問合せ、交渉を全くしていない。〈中略〉

四〈省略〉

五約束手形の振出人に対する手形金請求権が時効により消滅した場合には、特段の事情がない限り裏書人に対する償還請求権もこれにしたがい消滅すると解するのを相当とするけれども、手形割引依頼人の割引手形買戻義務は手形法上の義務ではなく、手形再売買に基づく代金支払義務であるから、右割引手形の振出人に対する請求権が時効消滅しても、これにより消滅しないと解するを相当とする(買戻義務は義務発生から五年の期間経過により時効完成するところ、本件においては本訴提起まで右期間が経過せず、時効は完成していない)。

したがつて、被控訴人らの時効消滅の抗弁は採用しない。〈以下、省略〉

(谷野英俊 丹宗朝子 西田美昭)

約束手形目録〈省略〉

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